これも前職のこと。某寺大住職の娘さんを教えていました。
この娘さん、娘さん以外の誰にも見えない子供の姿が「見える」のだそうで、下階の一番端の大教室で授業をしていますと、必ず「誰か」と話していました。
私にはどうしても、独り言にしか聞こえませんでしたので、授業が終わってからこっそりと、「何だったの?」と聞いてみたものです。
すると、今日は他愛もない話だったとか、昨日は「その子」の身の上話が聞けたなどと、私に教えてくれました。
まんざら作り話とも思えないリアリティに、私もずいぶん驚いたものです。
中学入試も終わり、進学先も決まり、娘さんが旅立つ日が来ました。ささやかな祝勝会を催したのですが、娘さんが何やら浮かぬ顔。「最近、会えなくなってきた」のだそうです。
「静かだから悪くない」けれど、「なんだか寂しい」とも。
時は移ろい数年後、某寺を訪れた私は、娘さんと再会しました。娘さんは六年一貫校の四年生(高校一年生相当)になっていました。
あの頃のことを聞いてみますと、「見えなくなってから、なんだか思い出せなくなった」と。
不思議なことだったねと、談笑したものです。