霞-春講日記(6)

春と言えば、この現象も見逃せません。万葉集の巻十・一八一二番から。おそらく、柿本人麻呂です。

ひさかたの 天の香具山 この夕(ゆふべ) 霞たなびく 春立つらしも

時は立春の頃、春霞が立ちのぼったらしく、遠く香具山がかすんでみえることだなぁ…と、一見何ということもない叙景歌です。

ところが近年とみに、黄砂だか霞だか原因判別不能なボヤケを見るにつけ、春の朝、なんとなく目前が見通せないからと、こりゃあヤバいっとばかりに、洗濯ものをしまい込み始めるようになりました。

おそらく万葉人たちは、こんなあんばいに春霞を畏れはしなかっただろうと推測しますし、そもそも黄砂が原因では、風情もヘッタクレもあったものではないわけですね。

霞は空気中の余剰水蒸気が、水滴となって漂うもの、長い冬の終わりと春の到来を告げる、趣深いものであると心得たいものですね。

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