なんぼなんぼ楽しかった思い出でも、人は忘れていきます。
忘れないようにするには、どうしたら良いのですか?と、しばしば聞かれます。先生、記憶力、良さそうですし…などと。
およそ人間であれば、忘却曲線というグラフの奴隷でありまして、時が経てば記憶が失われてゆくものです。個人差は、ほとんどありません。小生も例外ではありません。
しかしながら、一見「記憶力が良さそうな」人が、いつの時代にも一定程度存在しておりまして、この存在が謎を深め、問題を複雑にしているのも、また偽らざる事実でありましょう。
このような奇特な人々は、実はほんの少しのコツを身につけています。
「あかん、もうそろそろ忘却の彼方」といった刹那、人の記憶は一時的に、大量に鮮明に思い出されています。多くの人々は「奇妙なフラッシュバック」としか思っていませんが、まるでろうそくが消える直前の最後の炎…みたいな瞬間があるのです。
ここを見過ごさずに、この前後に合わせるかのように、もう一度覚える努力をかましますと、ほとんど覚えた直後のような新鮮な記憶が、リフレッシュされると知られているのです。
小生、忘却は日常生活を、つつがなく送るための知恵だと思うところが多く、なんでもかんでも何一つ忘れられない人は、過去にのみ拘泥された後ろ向き野郎に堕すると、そう思っている輩でもあります。
それにも拘らず、どうしても片隅に留めたい記憶を、意図的に取捨選択して、整理整頓できること、これを「忘れない」方法と評していただけるなら、それもまた役に立つことであろうと思えます。
大事なことは、忘却の宿命を呪ったり、嘆いたりすることではなく、それに抗う技を身につけ、利用することではないでしょうか。