久しぶりに明日香村を歩いてきました。
飛鳥川をさかのぼり、女綱、栢森、「さらら」さんまで、てくてくと。
稲渕、男綱を少し登って、久しぶりに「飛び石」へ。水流渦巻くと、水没してしまう石橋です。
橋のほとりに、万葉歌碑があります。
明日香川 明日も渡らむ 石橋の 遠き心は 思ほえぬかも (巻十一 2701)
飛び石をピョンピョン飛んで、向こう岸の想い人に会いに行く…恋の歌です。「会いたいな」と思っているだけですと、心理的な距離が、ほとんど無限大に大きいのでしょうが、飛び越えてしまえばほんの一瞬ですね。
『万葉集』はたいへん素直で、何かにつけてストレートで、わかりやすいです。
こんなふうに山の中では、飛鳥川が隔てるものといったら、せいぜい恋人との物理的な距離だけです。ほんの少しのディスタンスです。
川を下って嶋庄へ。蘇我馬子が「嶋大臣」となってから、天智・天武の離宮を経て、草壁皇子の居館まで。飛鳥川は祝戸で冬野川と合流して、約一世紀の長きにわたり、政治の季節を見続けました。
川を隔てた向こうには、橘寺、川原寺…。「彼岸」であります。
何事もなく茫洋と流れているだけの川に、あれこれ思いを致すのは、そこに群がってきた人々だからでしょうか。
川は悠久の時を見続けます。