男のメールフッタは、不評でした。長かったのです。
何が書いてあったのかと言いますと、実在をほぼ疑われない大王初代・崇神を暗殺しようとする企みが、山背の武埴安彦によって練られました。諸国鎮撫に向かった四道将軍の一人・大彦が、和邇坂を越えようとしたとき、企てを暴露する歌を詠う不思議な少女に出会いました。大彦は取って返し、崇神の指示を仰ぎ、武埴安彦を討滅したのでした。
この少女が詠った歌、「ミマキイリヒコはや。ミマキイリヒコはや。…」、この歌の美しさにグラッときまして、フッタに使わせてもらったのですが、本文よりも長いことがあると、苦笑やら、お叱りやら、ずいぶん物議をかもしたわけです。
そんなわけで、男はフッタを代えました。
「連帯を求めて 孤立を恐れず 力及ばずして 倒れることを辞さないが 力尽くさずして 挫けることを拒否する」。
安田講堂に大書されていたスローガンですね。
闘えぃ!負けるんは、しゃあないが、闘わんと、逃げるな!たった一人でも、闘えぃ!…と。
少しは短くなりましたでしょうか。あまり変わってないのかもしれません(笑)。
それはそうと、安田講堂から、もうすぐ半世紀ですか。攻防戦の前日、大講堂のグランドピアノが、きれいな「インターナショナル」を奏でていたと聞いたことがあります。投石を運ぶ学生たちも、盾の壁を徐々に詰める機動隊員たちも、思わず聞き惚れたとか。
あの日が遠くなったようで、男は苦いコーヒーを、一気に流し込みました。