「熱意」以外に、何もなかった桃源郷です。
しかしながら、「工夫」がありました。
「深度差は、しんどさ」と言い、無理な集合授業をしませんでした。個別指導を、大胆に取り入れました。
サラリーマンの営業成績表みたいなものが、壁に貼ってありました。生徒を切磋琢磨させるためです。
「いつかやる」ことを嫌いました。すぐにやるのでした。
敢えて「偉そうに」言いました。人間なるもの、言ったことは、やろうとするからです。
足を延ばせば見えるものは、見に行きました。耳をすませば聞こえるものは、静粛にして聞きました。
総じて、できることをやり残さない集団でした。
「すばらしいテキストが、合格者を増やす」と信じていた輩も、「とにかくガンガン鍛えれば、入試にはおつりがくる」と、豪語していたゴリラスタッフも、塾内政治に明け暮れていたロクデナシたちも、自らのドグマに気づきました。
変な憑き物が落ちてみると、教え、学ぶ者たちのユートピアが現出したのです。
「進学塾・桃源郷」が、教室をたたんで十年以上過ぎました。
いつ途切れるともなしに語り伝えられること、そのことがまさに、しがらみの向こうにぼんやりと見える理想郷を、幻視することなのでありましょう。