「バリウム検査で胃に影が映りました。精密検査に行ってきますので、今回の話は無かったことにしてください」。
ヘッドハンター氏に、彼は最終通達しました。しきりに心配するハンター氏。彼はもうひとつだけ、秘かに不審に思っていたことを調べてみたくなりました。
「ご心配ありがとうございます、S田さん!、あの時も、今回も」。
彼は二十数年前に辞した職場で、最後まで面倒を見てもらった「S田」氏に、ハンター氏の声色がそっくりだと気づいていたのです。
「ふふふ、お人違いじゃないですか?、××さん!」。
そう言い終わるが早いか、ハンター氏の電話が切れました。笑い声まで「S田」氏にそっくりでした。
翌日彼は、やはり気になって、ハンター氏が指定した5つの電話番号を呼び出そうとしてみました。
「お客さまのおかけになった番号は、現在使われておりません」。
すべてつながらなくなっていました。音声案内が空しく響いていただけでした。
後日談。彼からあらましを聞いた者の7割が、「ものは試しに契約交渉してみたらよかったのに」と言ったそうです。
小生には、彼が交渉してみなければわからないほど、鈍感だと思えません。
3割が「ヘッドハンティング詐欺だろ。狙われてるで、気ぃつけや」だったそうです。
これまた小生には、とっくの昔に彼が認識済みと考えます。
彼は黙して語りませんが、何かと彼の身辺騒がしかった時期に、存亡危急の情報を伝えてくれた「S田」氏、懐かしくて、ありがたくて、決して無下にはできなかった彼だったのだろうと思います。
彼はそういう、義理人情に厚い奴です。