はるまげ丼-冬講日記(17)

その大衆食堂は、とある研究機関の裏手にありました。建物の裏だから「うらめしや」と。

うらめしやに、伝説の必殺メニュー「はるまげ丼」がありました。親子丼とか、牛丼とか、天丼とか、…どんぶりもん一覧の最後に、ひっそりと小さく書かれていました。

うらめしやは、深夜食堂でした。終電ギリギリに、メシをかきこんで、最後の力を振り絞って駅に急ぐ店です。

不思議な店でした。そもそも営業しているところを見た者が、ほとんどいません。客として入ったことがある者も、メニューまでしっかり見ているわけではありません。ましてや、はるまげ丼を食べたことがある者など、ほとんど皆無というところでした。

まさに、はるまげ丼、噂になって進撃中!…でしたか。

誰も見たことがないと、逆に知りたくなってくるものです。某研究の先々代のプロジェクトリーダーが食べてみたら、大きな樽に一斗メシが出てきて、親子丼の具や、牛丼の具や、天丼の具がすべて乗っていた…とか、完食すると一年に一度「はるまげ会」に招待されて、無料で腹いっぱい食うことができる…とか、ついでの手足が生えていました。

ある満月の夜、23時30分、家路を急ぐ同僚研究者が、うらめしや経由で終電ゲットに走りました。とっくに終電を諦めていた小生は、同僚を見送って再び机へ。

28時ジャスト、歩いて帰るために研究室を施錠、門から出たところで、見違えるほど薄汚れた同僚に出会いました。

確かにうらめしやに入って、天丼を注文して、店を出たところまで記憶にあるそうです。しかしながら、数時間後、ふと気づいたら、何やら苦いものが口の中に!野草を食べていたことに気づいたそうです。

うらめしやは跡形もなく、満月と草原だけが目に映りました。

そういえば、うらめしやを語る皆さんは、大昔の思い出話ばかり。…最近行ってきました、って報告が絶えて久しかったです。

同僚と顔を見合わせて、思わず笑ってしまいました。お互い、忙しすぎましたね。それにしても、過労死防止効果のある都市伝説なんて、すてきじゃありませんか(笑)。

へい!らっしゃい!はるまげ丼、いっちょう!…親父の元気な声が、夜明けの草原に響いたような気がしました。

石川数学塾大阪
学園前教室・杉浦