大阪通信 Vol.56 では、ブログの連載記事が一冊にまとまっています。
題して『春講日記 久方の光のどけき』。ご好評いただきました「春講日記」ですね。
いつもどおり、表紙のアジテーションが、書きおろしです。
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春過(はるす)ぎて 夏来(なつき)たるらし 白(しろ)たへの 衣干(ころもほ)したり 天香具山(あまのかぐやま)
持統女帝、御製にございます。「百人一首の二番目」として、記憶されているかもしれません。
春講日記をまとめたところで、はや「夏来たるらし」とは、なんと気の早いこっちゃねんと、叱られることまちがいないでしょうが、そんなにセッカチせずとも、ほんの少し小生の話におつきあいください。
明日香村大字飛鳥の田んぼのド真ん中から、大和三山が見えます。葛城、金剛も、生駒山も、多武峰も迫ってくる中で、香具山だけ、のっぺりと横たわっています。畝傍と耳成が、大地にニョキッと生えているようなのに、香具山は尾根筋の先っちょに転がっているようです。
大和三山がほぼ、正三角形の頂点に位置するのは、有名な話ですね。口さがない者どもは、畝傍、耳成を選んだあと、最後にデッチアゲられたのが香具山だと。こんなことを言っている皆さんは、古来香具山こそが霊験あらたか、霊威最強、三山のNo.1であったと聞いて、例外なく驚かれます。
伊予国風土記逸文に、天より下った山と書かれ、記紀には神器埴土(はにつち)を供する山と言われ、頂上には国常立(くにのとこたち)を祀る、…由緒ありすぎて、震えが止まりません(笑)。
女帝が幻視なさった香具山は、天の羽衣(はごろも)を身にまとい、かつて御門(みかど)とされた「天」と、現にお住まいされる「地」を、自由自在に行き来し、思う存分に磐余の春を楽しまれたのではないでしょうか。
とりあえず使い終わった羽衣を、「白たへ」となるまでしっかり洗い、来年の春を期して「干」す。そんな日常のあれこれから、透けて見える幻は、縦横無尽に飛びまわった古き良き香具山であり、そうありたいという女帝自身の願いだったのでしょう。
春講日記は女帝の願いを透かし、懐かしき古き香具山となって書かれました。ポカポカ陽気の縁側で、寝転がってお読みください。香具山が、あなたをお迎えに参ります。
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大阪通信 Vol.56、石川数学塾大阪・学園前教室にて好評配布中です。ご自由にお持ちください。
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