「汚れっちまった悲しみに 今日も小雪の降りかかる 汚れっちまった悲しみに 今日も風さえ吹きすぎる」
いつもブツブツ言っていた友人がいました。いつもこんなことを言われました。
「杉浦ぁ、野菜食べろよぉ~♪」
中原中也の数倍、奇妙な節回しでした。ガリガリに痩せていた彼に、思わず忠告しました。
「おまえもなぁ、肉食べろよぉ~♪」
いつのまにか節回しが伝染していました。
高橋和己の『黄昏の橋』を「読め!」と言われました。
「弁天橋だろ?陰気な総括、やめえや。」
即座に返されました。
「わかっちゃいないんだよな、おまえ!」
わかっちゃいないのはどっちだ?この石頭!と、浴びせかければ殴り合いになりそうで、ぐっと飲み込みました。
最高学府の西のてっぺんにしては、不毛な会話が続いたのかもしれません。けれど何かお互いに、しゃべる喜びを感じたものです。
毎年春先だけ元気だった彼が、夏秋冬とどんどん弱り、いつのまにか春先にも会えなくなって、風のうわさに神に召されたと聞きました。
お互い不毛に若かった二人が、沈みかけた上弦の月を見ながら、ホワイトのお湯割りと焼きスルメで語り合ってから、25年が過ぎ去りました。
『黄昏の橋』、今も小生の本棚に、大きな顔をして並んでおります。