春講日記(その15)-久方の光のどけき-

「汚れっちまった悲しみに 今日も小雪の降りかかる 汚れっちまった悲しみに 今日も風さえ吹きすぎる」

いつもブツブツ言っていた友人がいました。いつもこんなことを言われました。

「杉浦ぁ、野菜食べろよぉ~♪」

中原中也の数倍、奇妙な節回しでした。ガリガリに痩せていた彼に、思わず忠告しました。

「おまえもなぁ、肉食べろよぉ~♪」

いつのまにか節回しが伝染していました。

高橋和己の『黄昏の橋』を「読め!」と言われました。

「弁天橋だろ?陰気な総括、やめえや。」

即座に返されました。

「わかっちゃいないんだよな、おまえ!」

わかっちゃいないのはどっちだ?この石頭!と、浴びせかければ殴り合いになりそうで、ぐっと飲み込みました。

最高学府の西のてっぺんにしては、不毛な会話が続いたのかもしれません。けれど何かお互いに、しゃべる喜びを感じたものです。

毎年春先だけ元気だった彼が、夏秋冬とどんどん弱り、いつのまにか春先にも会えなくなって、風のうわさに神に召されたと聞きました。

お互い不毛に若かった二人が、沈みかけた上弦の月を見ながら、ホワイトのお湯割りと焼きスルメで語り合ってから、25年が過ぎ去りました。

『黄昏の橋』、今も小生の本棚に、大きな顔をして並んでおります。

石川数学塾大阪
学園前教室・杉浦