長いこと京都に住んでいました。歳をとったのでしょうか、妙に思い出されてなりません。
そのお店は三条木屋町(さんじょうきやまち)にありました。シャレた店が軒を連ねる木屋町…のイメージとかけ離れた、雑居ビルの5階でした。
おふくろさんは、いつもコジャレた着物姿でした。いつも笑顔で迎えてくれました。
「お久しぶり。今日はどうする?」
「とりあえず、いつもの一杯!」
幾度となく交わされた会話でした。大きな丸い氷が、口幅の広いグラスにドカンとストライク。スコッチベースのカクテルが、シャカシャカとシェイクされ、トロリと注ぎ込まれます。グラスの端にソルトをふってできあがり。
口当たり良く、どんどん飲めてしまいます。とどまるところを知りません。
にぎやかな店でした。いかにも奇妙なお客さんも来ました。
札束握りしめて、倒れこむようにご来店の若者。
「これで飲めるだけ飲ませてくれぃ!」と、哀願が早いか泣きはじめ、結局閉店まで泣きながら飲んでいました。
いつ来ても「人の道」を諭すご年輩。煙たがられるほどに生き生きとなさっていきました。
私も含め、何か心に一物あって、誰かに何かを聞いてもらいたくて、集う店でした。
さりながら、思いのたけすべてを語って、去っていくわけでもありませんでした。
「何をお悩みですか?」
あのショットバーの常連であった小生が、懇談の初めに必ずかけさせていただく言葉です。
笑顔を忘れず、さりげなく、優しくカクテルを作ってくれたおふくろさんのように、何でも話していただけるように。
季節がら、ほぼ毎日お話しさせていただく、一期一会の幸せをかみしめながら。